現在進行系のスエズ運河タンカー座礁、損害賠償請求額は??
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事業リスク, キャプティブ関連ニュース
世界の海上輸送の要衝であるエジプトのスエズ運河で2021年3月23日、大型コンテナ船が座礁し、完全に運河をふさいでしまったため他の船舶が通航できない状況に陥りました。
座礁したのは全長400メートルの大型コンテナ船「エバーギブン」で、強風と砂嵐によって操舵不能に陥ったことが原因とみられます。乗組員に負傷者は出ていないほか、海洋汚染につながる損傷もないとのことですが、経済的には大きな影響が発生しています。
スエズ運河は海洋貿易において非常に重要な場所のため、この事故によってスエズ運河が遮断された影響は極めて大きいです。具体的には、ヨーロッパで消費された石油の3分の2はスエズ運河を経由して運ばれたとされ、世界貿易の輸送量の10%がスエズ運河を利用し、1隻あたり平均料金は25万ドルを超え、スエズ運河を所有するエジプト政府に莫大な外貨収入をもたらしていることからその重要さが伺い知れます。
エバーギブンは、日本の正栄汽船という今治造船のグループ企業が所有しており、台湾の海運会社にリースしているとのことです。
通常、船を所有する企業が保険をかけており、同規模のコンテナ船であれば船体と機械設備について1億から1億4000万ドルを補償する保険に入っている可能性が高いようです。また、離礁作業の費用も船体と機械設備の保険でカバーされます。
今回の事故は、具体的にはどのような影響や損害賠償請求が予想されるでしょうか。
まず、同コンテナ船の所有者や、航路を妨害された他の船舶に積載された荷物の所有者が、傷みやすい生鮮食品や配達期限が守れなかったものについて、損害賠償を請求することが予想されます。
また、船の滞留が続くことによりサプライチェーンが途絶えることで、多方面に影響が出ます。スエズ運河を通過する荷物の4分の1は石油のため、この事故により国際物流に混乱を来すとの懸念から、原油先物相場が急上昇しました。
また、スエズ運河を通行する予定だった他の海運会社が、迂回して南アフリカのケープタウン経由の航路に変更した場合、1週間以上のロスが発生することもあり、これによる遅延損害金なども予想されます。
結果、今回の事故ではその所有者である正栄汽船と保険会社には数百万ドル規模の損害賠償が請求される可能性があるといわれています。報道によると、エジプト政府が直轄しスエズ運河を管理運営するスエズ運河庁から、座礁による収入面の損失を補償するよう請求される可能性があり、航路を妨害された他の船舶からも賠償を求められることが予想されています。
国内石油元売り大手の出光興産と創業者の出光佐三氏をモデルにした小説「海賊と呼ばれた男」でも、終盤のクライマックス「日章丸事件」の描写として、船底ギリギリの河川を北上して、イランからの石油の輸入を実現した出来事がエキサイティングに描かれています。この小説の舞台はペルシャ湾なのでスエズ運河とは異なりますが、船舶が運河や河川を航行するには大変な技術が必要だということがわかります。
そして、海運の要衝を事故によってふさいでしまったことの影響は、いち企業が起こしたことでも世界中の経済に損害をもたらし、その額は甚大なものになることがよくわかります。
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