事業リスク開示し、具体的に対策を講じていたソニーの事例
事業リスク開示にまつわる事例として興味深い、ソニーの事例をご紹介します。
2016年4月に発生した熊本地震は、九州地方に甚大な被害をもたらしました。熊本県は、この地震による被害額は3.7兆円にのぼると試算。ソニーは、デジカメや監視カメラ向けの画像センサー等を手掛ける最先端工場を熊本に有しており、この工場も大きな損害を被りました。
ソニーは2019年度の有価証券報告書にて、事業等のリスクとして21項目を挙げています。その中には大規模な災害により被害を受ける可能性に言及をしています。熊本地震が発生する以前の2014年度のソニーの有価証券報告書にも、リスク情報として次のように記載していました。
ソニーの設備や情報システムは、大規模な災害、停電、違法行為などにより、被害を受ける可能性があります。また、これらの予期できない大惨事にともなうサプライチェーンや生産活動の混乱及び法人顧客からの需要減などがソニーの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
ソニーの本社及び半導体生産設備のような最先端デバイス製造拠点の多くは、他国よりも地震のリスクが比較的高い日本の国内にあります。日本において大地震が起きた場合、特にソニーの本社がある東京や、完成品の製造事業所が所在する東海地方及び半導体製造事業所が所在する九州地方及び東北地方で起きた場合には、建物や機械設備、棚卸資産や、製造事業所における生産活動の中断などを含めて、ソニーの事業は東日本大震災時よりも大きな被害を受ける可能性があります。(中略)
ソニーが加入している保険はその結果発生する費用や損失を十分に補填できない可能性があります。
(ソニーの2014年度有価証券報告書より引用)
このような記載に対して、ソニーは地震により直接発生した損害を補填する保険契約に加入しており、その保険契約はソニー及び子会社が対象に含まれていました。また、この保険契約は固定資産及び棚卸資産にかかる損害及び費用のほか、撤去及び清掃等を含む追加費用ならびに逸失利益を含む休業損害を補償範囲に含んでいました。
当時ソニーは、この地震による2016年度連結決算の営業利益への影響額は当時1150億円になるとの見通しを示しました。そのうちこの地震による被害に直接関係する修繕費及び棚卸資産の廃棄損等を含む追加の損失及び費用を166億と計上していました。
ソニーはまず、被害を受けた固定資産及び棚卸資産に関する損害額をまとめ、この部分を保険金請求により回収する可能性が高い部分として約106億円を保険未収金として計上、保険会社との交渉を経て100億円の保険金支払いの合意を取り付けました。さらに、休業損害に対する補償に関する交渉を継続し、結果としてソニーは休業損害に対する保険金100億円の保険金支払いの合意も獲得、合計200億円の保険金を受け取りました。
この事例はいくつかの示唆を含んでいます。
まず驚くべきことにソニーは、通常であれば加入が極めて難しい、企業が所有する最先端工場にかける高額な地震保険に加入していたことです。そもそも一般的に、企業は自ら所有する工場や設備等の物件に地震保険をかけたくても、国内の保険会社が引き受けてくれないケースが多いです。ソニーがこのような地震保険に加入できたもの、海外に自家保険会社であるキャプティブを組成することにより、海外の再保険マーケットより地震保険のカバーを調達できたからとされています。
またソニーは、事業リスク情報として自然災害に関する情報提供をしていると同時に、かつ実際にそれに対しての事業リスク対策としてリスクファイナンスを実施していたことは、投資家に対して重要な取り組みになります。
このような事業リスク情報については、認知して公表しておきながらも具体的な対策を取っていない企業が多い中で、ソニーは対策を取っていることを示すことができました。
今回ご紹介したソニーのケースは、この先、事業リスクの所在を明らかにするだけでなく具体的な対処方法を示すことが、企業を取り巻くステイクホルダーに対して重要なメッセージになることを示す好事例だと思います。
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