グローバル保険プログラム
公開日:
:
キャプティブの仕組み
企業の事業活動がグローバル化するに伴い、リスクマネジメントも同様にグローバルな視点が求められています。販路・拠点拡大といった攻めと、リスクマネジメントといった守りを両輪で回していく必要があります。
しかしながら、営業活動については海外拠点である現地法人との連携を密にとる一方で保険の手配は現地の担当者に任せっぱなしというケースはよくあります。
この場合、親会社は現地法人が手配している補償の内容を把握していないため、日本の親会社や現地法人がそれぞれ手配している保険に重複や漏れが発生します。その結果、保険事故が発生した際に十分な補償が得られない可能性が生じます。また、グループ全体でみると支払保険料が膨大になるにもかかわらず、保険契約自体はグループ内の各々の法人が個別に契約しているため、本来であればグループとしてのスケールメリットを享受できるチャンスを逃してしまっています。
このような課題を解決するために生まれたのが、今では欧米のグローバル企業では一般的になっている、グローバル保険プログラム(Global Insurance ProgramまたはGIP)です。
グローバル保険プログラムは端的に言えば、親会社が契約者となってグループ全体を補償するマスター・ポリシーと、現地法人が必要に応じて現地で契約するローカル・ポリシーを組み合わせた補償の組み合わせです。しかしながら、単に各国の現地法人がそれぞれ、同一グループのグローバル保険会社から保険に加入するのはグローバル保険プログラムではありません。そこにはグループを統括する親会社がグループ全体の補償内容を設定し、その方針に沿って現地法人が保険会社で保険契約を締結するという、統一性と補償の効率性が実現していないと意味がありません。
基本的なグローバル保険プログラムは次の2ステップになります。
1. 親会社によるグループ全体の補償内容や条件の決定
2. 親会社の指示のもと、現地法人による保険契約の実行
全体を通じて親会社によるイニシアティブが重要になりますが、とはいえ本社にて現地の事情を全て把握しているわけではなく、さらには現地の保険に関する規制まで精通するのは稀なことです。例えば、海外では国ごとに保険の規制が異なったり、日本と海外とで補償条件が異なったりするため、それらを国ごとに把握していく必要があります。これは条件差とよばれ、グローバル保険プログラムの検討の際は必ず検討する内容になります。条件差の典型的な例は次の2点です。
① 現地法人ごとで異なる補償上限
② 現地保険会社ごとで異なる補償条件
この条件差のために、ローカル・ポリシーの支払限度額を超える事故やローカル・ポリシーでは支払い対象にならない事故に対して、親会社が手配するマスター・ポリシーによってカバーします。このようにローカル・ポリシーの支払限度額を超える事故をマスター・ポリシーで補償することをDIL(Difference in Limit)、ローカル・ポリシーでは支払い対象にならない事故をマスター・ポリシーで補償することをDIC(Difference in Condition)といいます。
グローバル保険プログラムは、世界の保険規制等に精通した保険ブローカーの支援の下で実行され、通常、マスター・ポリシーを発行する保険会社のグループ会社にてローカル・ポリシーの発行も行われます。これによりスケールメリットの享受と各国の規制やコンプライアンスへの対応を目指します。
このような取り組みを経て、グローバル保険プログラムによってグループ全体のリスク管理体制や保険条件の構築による保険の重複や漏れの回避、付保規制や税制等のコンプライアンス遵守、グループ全体での保険調達によるスケールメリットの享受、というようなメリットを得ることができます。
事業リスク対策保険パートナー募集中
K2 Partnersは海外のキャプティブ(再保険)を使った事業リスク対策保険を顧客へ提案するパートナーを募集しています。主に保険屋さん、税理士、経営&財務コンサルタントなど専門性の高いプロフェッショナルなパートナーと一緒にやらせてもらっています。ノルマ、費用など一切ありません。
関連記事
-
保険会社の再保険取引を理解するための基礎知識(2)
前回は再保険を契約手続きの違いから、任意再保険と特約再保険に分類し、その特徴や実務面の違いを比較しま
-
改めて再保険ブローカーの重要な役割について
再保険は保険会社の保険と言われている通り、保険会社が再保険料を払って、自ら引き受けたリスクを他の保険
-
保険会社の再保険取引を理解するための基礎知識(1)
再保険は、リスクを引き受けた保険会社がそのリスクの一部を所定の保険料で再保険会社に移転しリスクを分散
-
保険市場のハード化 4つの現象
以前の記事で、現在保険市場がハード化していることと、それに伴いキャプティブ設立数が急増していることに
-
事例研究 既存保険の更改のタイミングで保険料上昇を回避し、新たに地震保険調達したケース
【ケース】機械設備メーカーによる地震保険の調達とCGLの更改A社は、海外にも幅広く展開する機械設備の
-
アジアの金融センターとしてのラブアンとキャプティブ
キャプティブの設立を検討する際に身近な設立地として注目を集めているのが、マレーシア領ラブアンです。ラ
-
事例研究:テルモが米国ハワイ州にキャプティブ設立②
医療機器製造・販売の上場会社であるテルモは2020年2月、米国ハワイ州にキャプティブを設立しましたが
-
再保険マーケットとは?メインプレイヤーの保険料、市場規模はどのくらいか?
前回は再保険マーケットの機能を中心に、再保険マーケットの本質的な理解を試みました。今回は、再保険マー
-
ラブアンキャプティブ セミナーレポート
先日ラブアンIBFC(国際ビジネス金融センター)が主催するキャプティブセミナーに参加しましたので、そ
- PREV
- 事例研究:テルモが米国ハワイ州にキャプティブ設立②
- NEXT
- 保険市場のハード化 4つの現象